2009年11月28日

バンドゥビ

 今年の韓国映画ショーケースでもっとも早い整理番号の18。観客も40~50人といったところでしょうか。韓流スターどころか名の知られた俳優がほとんど出てない作品とはいえ、残念です。すごくおもしろかったのに! バングラディシュから韓国にやって来た外国人労働者と韓国人女子高生。孤独を抱えた2人を描いた作品です。
 ヒロインのペク・チニは1990年2月8日生まれ。『人を捜します』でデビューした新人ですね。『キッチン』(09)や「1000万回愛してる」(09)に出てるようです。ちょっと髪型を変えただけで雰囲気までガラッと変わります。劇中、大学生のふりをして風俗店で働きますが、そのときはかなり大人っぽい印象でした。気になる女優です。バングラデシュ人労働者のカリム役は『ロニーを探して』(09)にも出演してるマブブ・アロム(Mahbub Alam Pollob)。ずいぶん韓国語が達者ですね。この主演の2人が実にイイのです。
 ほかにはあまり有名な俳優は出てませんが、ミンソの母親であるウンジュ役は「風の国」(08)でムヒュル(ソン・イルグク)の生母ソファ役や「シークレット・ルーム」(08)で妓房の女主人ケウォル役を演じてたイ・イルファ。その恋人のキホン役は「白い巨塔」(07)で外科医に扮してたパク・ヒョックォンでした。
 監督はデビュー作『訪問者』(05)のDVDが間もなく発売されるシン・ドンイル。これが第3作となります。

 ミンソ(ペク・チニ)は不機嫌な女子高生。どうにも頼りないキホン(パク・ヒョックォン)と付き合っている母親(イ・イルファ)に反発してます。バス車内で拾った財布をくすねようとしたり、バレてしまったら頬にキスして許してもらおうとしたり、世の中をナメてるというのか、いかにもイマドキの女子高生といった感じ。ムカつきます。その財布の落とし主がバングラデシュから出稼ぎにやって来ているカリム(マブブ・アロム)。差別に慣れてるのか、バスで空いている隣の席をすすめて無視されたりしても怒りはしません。「垢の色は?」なんて不躾な質問をされても「同じだよ」と思わず笑顔をこぼしてしまいます。ミンソのその屈託のなさにむしろ好感さえもったのかもしれませんね。
 気に入らないことは気に入らないとはっきりしてる直情型のミンソ、はじめのうちはムカつくんですが、だんだん痛快な気分になってきます。カリムに一年分もの賃金を払わないままの社長宅に乗り込んで、社長を引っぱたいてやるところなんか、爽快です。それから「ありがとう」や「ごめん」という言葉を(普通だったら出てくるであろう場面でも)ミンソが口にすることはないんですが、最後に一度だけ「ごめん」と言うシーンがあります。そういうミンソがカリムと出会ったことで徐々に変わっていく姿が描かれています。
 ところで、カラオケでミンソがうたうのはパンク・バンドCrying Nutの「ルクセンブルク」でした。「肌の色や言葉は違っても俺たちはみんな誇らしい人間だ」といった歌詞が『ノーボーイズ、ノークライ』(09)での「アジアの純真」のような効果をもたらします。とても好きなシーンです。
 エンドロールではミンソがインド料理店で食事をする様子をひたすら映します。メニューにないバングラデシュ料理を食べながら、カリムとの思い出に浸ってる様子。あんまりおいしそうにしてない(ライスやナンにばっかり手を出して肝腎のカレーをあまり口にしない)のがちょっと気になりましたが、いろいろと想像させるラスト・シーンでした。おそらく数年後(髪の長さからしてほんの数ヶ月というわけではなさそう)。よく見ると、左手薬指に指輪をしてます。カリムと結婚したわけではないでしょう。でも、彼との思い出はけっして色褪せたものではないんですね。ちなみに「バンドゥビ」とはベンガル語で「真の友人」という意味だそうです。
 ところで、カリムが捕まったのは、ミンソを心配したキホンが警察に通報したことがきっかけでした。そのことでミンソは激怒して罵りますが、キホンもけっして悪い人間として描かれているわけではありません。無職だったキホンがようやく就職した先は建設現場で、そこで働く外国人労働者たちに飲み物を配ったり煙草をあげたりするシーンが(遠くからでしたが)あります。そんなところにも好感がもてました。

 全部を観たわけじゃないですが、韓国映画ショーケース2009でいちばんよかった作品です。これは日本でも劇場公開してもらいたいところ。ぜひまた観たいものです。

バンドゥビバンドゥビ 반두비
韓国/2009年/107分/2009年6月25日公開(韓国)
http://blog.naver.com/bandhobi/
韓国映画ショーケース2009にて上映 http://filmex.net/kfs/2009/

ペク・チニ......ミンソ 女子高生
マブブ・アロム......カリム バングラデシュ人労働者
イ・イルファ......ウンジュ ミンソの母
パク・ヒョックォン......キホン ウンジュの恋人
キム・ジェロク......ミンソの担任教師
チョン・ドンギュ......シン・マンス 賃金未払いの社長
パク・ヨン......ガソリンスタンドの社長
クォン・ヒョクプン......コンビニの泥酔客
チャン・セバスチャン......ハインズ 英会話学校講師 ※友情出演

【監督】シン・ドンイル
【製作】シン・ドンイル、キム・イルグォン
【脚本】イ・チャンウォン、シン・ドンイル
【撮影】パク・チョンチョル
【照明】チャン・ウォヌク
【音楽】キム・ジョングン
【美術】キム・ソンミ
【編集】ムン・インデ
【配給】インディ・ストーリー





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